PONS IP(スペイン)事務所からのご訪問
10月17日(水)、スペインの「PONS IP事務所」より弁護士のIsabel Cortes (国際商標部門 代表)氏が弊所に来所され、セミナーを行ってくださいました。
<セミナーの内容>
1. PONS事務所の概要
2. 統一特許制度
3. Brexitによる影響
4. スペインと統一特許制度
5. スペイン国内の法改正
1. PONS IP事務所の概要
PONS IP事務所は1947年に創設された知財のみを取り扱う事務所で、70年の歴史を誇る。所員約130名を擁し、80%のクライアントがスペイン国内のクライアントである。
取り扱う案件の内、50%が商標に係る案件で、その他50%は特許に係る案件である。同じスペイン語を主言語とする南米諸国と深い繋がりがあり、南米諸国での権利化を目指すクライアントはPONS IP事務所を通じて手続等をより円滑に行うことができる。
2. 統一特許制度
基本、通常の欧州特許出願をし、実体審査を経て登録査定を受けた後に統一特許制度による保護を選択することができる。統一特許制度を利用することで生じる利点としては以下のようなものが挙げられる。
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1つの登録で加盟国26ヵ国における保護が得られる。
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特許査定後の指定国ごとの有効化手続 (Validation)が不要となる。
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1つの年金の納付で済む。
統一特許裁判所 (UPC)の概要は次の通りである。第一審の裁判所としては、地方法廷、中央法廷及び地域法廷があり、上訴等はルクセンブルクにある控訴院 (第二審)の管轄となる。さらにその後、欧州連合司法裁判所 (第三審)への上告も可能である。
3. Brexitによる影響
EU離脱後も、イギリスは統一特許制度の加盟国として残留する意向にある。イギリスの統一特許制度への加盟は既に、同国の白書で確定しており、2018年4月に議会により批准されている。
しかしながら、統一特許制度に加盟している他の欧州諸国は、イギリスの上記意向を歓迎しないものとみられる。これは、「EUを離脱したのにも拘らず、統一特許制度(UPS)の加盟国として残留するのは筋が通らない」という考え方に基づくものである。
EU離脱後もUPSの加盟国として残留することを認められるであろうと想定していたイギリスは、ロンドンに、薬学に特化した中央法廷の建設を始めており、スタッフの募集も始めていた。Brexit後の今となっては、イタリアのミラノに同法廷を移す可能性が高まっている。
総じて、Brexitの影響により、統一特許制度の施行が遅れているといえる。
「イギリス国内では、再投票を行って再びEUに戻ろうとする動きもみられますが、世界有数の民主主義国家であるイギリスの情勢が不安定なのは望ましいことではない」(Cortes氏 談)
4. スペインと統一特許制度
スペインが現時点で統一特許制度(UPS)へ加盟しない理由としては、以下のようなものが挙げられる。
(1)スペイン語をUPSの公式言語の1つとして認めてもらえない。これは、スペイン語を主言語とする南米諸国の出願人が欧州で権利化を目指す際に障壁となる。相対的にその他の地域の企業にとって有利となる。
(2)突如のBrexitの影響で、UPSにはまだ多数の予測不能な不確定要素が存在する。
(3)「国である」スペインがUPSに加盟していなくても、スペイン企業はスペイン「国外」で統一特許制度による保護を求めることができ、スペイン「国外」での権利行使が可能となる。
(4)統一特許裁判所における訴訟費用は、スペイン国内の裁判所のそれよりも高価であり、スペインの中小企業にとって負担となる。
5. スペイン国内の法改正
EPOの規定等と歩調を合わせるために、スペイン国内では例えば以下のような法改正が行われた。
(特許及び実用新案)
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特許出願について、強制的に(compulsory)実体審査が行われるようになった。
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特許公報発行後6月以内の異議申立制度の新設
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登録査定後における訂正制度の新設
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バルセロナ、バレンシア等に特許侵害事件に特化した法廷の設立
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実用新案の対象を、医薬品、生体物質以外のすべての「物品」に拡張した。
(商標)
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自然人及び法人が出願人適格を有することが明文化された。
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商標の定義を「graphic representation (図的表現)」から単に「representation (表現)」とした。
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商標登録を受けることができない商標として、「原産地名称」及び/又は「保護された地理的表示」を含む商標が明文化された。
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周知商標及び著名商標の概念を1つのカテゴリーにまとめ、「Remarked trademark」とした。
筆: 王 稔豊盛