知財のはてな & トラブル事例集
事例1. 特許って何のためにあるの?
特許の法目的は、発明の保護および利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することにあります。
特許出願をすると、原則として1年6月を経過した後、発明の内容が公開されます。その発明の内容を見た他人は、その発明を参考にして改良発明を行います。このような改良発明が繰り返されることで、その分野の技術は累積的に進歩します。
その一方で、特許を出願した人は、発明の内容が公開される代償として、特許権を取得することができれば、原則として出願から20年間、その特許発明の実施をする権利を専有することができます。すなわち、特許発明を独占的に実施することができ、他人の実施を排除することができます。これにより、特許を取得した特許権者は利益を得ることができます。
このように、発明の保護および利用が図られることにより、発明意欲の向上を促し、産業が発達していくことになります。
事例2. 費用を掛けて特許権や意匠権を取得して実際何の役に立つの?
特許権や実用新案権、意匠権等の取得、維持には費用が掛かります。そのため、例えば費用を掛けて意匠権を取得せずとも、自社製品を他人に模倣された場合、不正競争防止法第2条第1項第3号によって差止請求や損害賠償等を請求すればよいとお考えの方もいらっしゃるかもしれません。
しかしながら、不正競争防止法第2条第1項第3号は、そのままそっくり真似をした、いわゆるデッドコピーの場合に限られ、さらに日本国内において最初に販売された日から起算して3年が経過している場合には、差止請求権等を行使することはできません。
これに対し、意匠権を取得している場合、登録意匠に類似する物品に対しても差止請求することができます。そして意匠権の存続期間は設定登録の日から20年です。従いまして、模倣品対策としては、意匠権を取得することが有効であり、意匠権の取得までのデッドコピー対策として不正競争防止法第2条第1項第3号を活用するのがよいでしょう。
また、特許や実用新案においては、技術的範囲を定める「請求の範囲」を工夫して、できる限り広い範囲で権利化しておけば、他人が巧妙に真似をしようとしても、貴社商品の大切なコア部分の模倣は防ぐことができます。
さらに、特許では権利化ができず拒絶査定が確定してしまう場合もありますが、少なくとも拒絶査定が確定するまでの数年間は、他人が模倣することに対する一定の牽制の効果があります。従って、その間は貴社製品を実質的に独占状態で販売することが可能ともいえます。
どの権利を取得して貴社の財産を守るかは、ケースバイケースですので、お気軽に当所にご相談下さい。
事例3.特許事務所に依頼せずに自分で出願して費用を抑えたいのですが
特許では、権利行使時に重要な技術的範囲は「特許請求の範囲」の記載に基づいて定められます。この「特許請求の範囲」が特許庁の審査官により審査されるのですが、「特許請求の範囲」の記載は簡単ではなく、権利行使等に活用できる権利の取得を図るためには、プロである特許事務所に依頼されることをお勧めいたします。
また、特許庁による審査の結果、特許性が認められなかった場合には、拒絶理由通知を受けることがあります。この際、上記「特許請求の範囲」を特許性のあるものとすべく補正をするのですが、この際の補正は、出願時に「特許請求の範囲」と一緒に提出する「明細書」に記載した範囲で行わなければなりません。この「明細書」を明確かつ十分に記載するためにも、特許事務所に依頼されることをお勧めいたします。
さらに、拒絶理由通知に対応する際、補正と同時に、審査官に発明の特許性を主張する「意見書」を作成します。この「意見書」も特許権を取得するためには重要な役割を果たします。自分で出願したものの、拒絶理由通知に対する対応にお困りの場合には、是非当所にご相談ください。
実用新案では、特許と異なり、審査されずに登録されますが、「特許請求の範囲」に相当する「実用新案登録請求の範囲」で技術的範囲が決まりますので、特許と同様のことが言えます。なお、権利行使をするためには、「実用新案技術評価」の請求をして、技術的な評価報告を審査官に作成してもらわなければなりません。この評価で高い評価を得るためにも、特許事務所に依頼されることをお勧めいたします。
事例4.特許権者が権利行使を渋っているけど、実施権者が権利行使できる場合はあるの?
特許権者は、自己の特許権を侵害する者に対して権利行使をすることができます。権利行使には、侵害者による侵害行為を差し止める差止請求(特許法100条1項)と、侵害行為により発生した損害の賠償を請求する損害賠償請求(民法709条)等があります。
また、特許権者は、自己の特許権について他人に実施権を設定・許諾することができます。いわゆるライセンス契約です。この実施権には、専用実施権(特許法77条)と通常実施権(特許法78条)の2種類があります。
専用実施権者は、設定契約で定めた範囲内(期間、内容、地域等)において、特許発明の実施をする権利を占有します。「占有」とは、設定範囲内で独占的に特許発明の実施をすることができると共に、他人が特許発明の実施をした場合にそれを排除できるということです。すなわち、専用実施権者は、特許権者と同等の地位を有します。ちなみに、専用実施権を設定した範囲内で、特許権者が特許発明を実施した場合には、専用実施権を侵害することになります。
したがって、専用実施権者は、侵害者に対して差止請求(特許法100条1項)および損害賠償請求(民法709条)を行うことができます。
一方、通常実施権者は、設定契約で定めた範囲内において、特許発明の実施をする権利を有します。しかしながら、専用実施権と異なり「占有」ではありません。したがって、通常実施権者は、設定範囲内で特許発明を実施することはできますが、他人が特許発明を実施した場合にそれを排除することはできません。すなわち、通常実施権者は設定範囲内で特許発明を実施できるとの許諾を受けているにすぎないということです。
なお、特許権者は、既に通常実施権を許諾した範囲内において、他の者に実施権を設定・許諾することができ、さらに、通常実施権を許諾した範囲について特許権者自身が特許発明の実施をすることもできます。したがって、通常実施権者は、侵害者に対して差止請求および損害賠償請求を行うことができません。
ところが・・・慣習上、通常実施権には、その他の者に実施権を設定・許諾しないとの特約を付した「独占的通常実施権」と、その他の者に実施権を設定・許諾せず、かつ、特許権者自身も特許発明の実施をしないとの特約を付した「完全独占的通常実施権」があります。独占的通常実施権者と完全独占的通常実施権者に差止請求および損害賠償請求を認めるか否かについては学説・裁判例とも分かれるところです。
(2014.7.7 回答:弁理士 加藤 裕介)